マニュアル車って楽しいじゃん

マグナ50を買う時に一番気になったのは、マニュアル車である、ということ。俺は当然、生まれてこのかたマニュアル車なんて乗ったことなかった。原付免許取るときの走行講習でもマニュアル車の乗り方なんて教わらないし。ホントに乗れるのかねえ、というのが一番心配だったから、ショップの人に「乗れますかね~?」と聞いたところ、「大丈夫、うちの裏で30分も練習すれば、女の子でも乗れるよ」ということで買うに気になったわけ。
で、納品時にまずマニュアル車の運転の基本を教えてもらって、ショップの敷地内を30分程度、ぐるぐる回った。最初のうちはちょいクラッチの使い方が分からなくてエンストしたりしてたのだけど、確かに30分も乗ってたら自信ができてきた。「じゃあ、これで」とそのまま一般公道に出てみたけど、確かに最初は怖い。道の左の端っこを制限速度30km/hでノロノロ走って家まで帰った。最初、自信がない人は、店の車で家まで運んでもらった方がいいと思う。
で、その後、毎日乗って、「あ~、乗れるようになったかな」と思ったのが1週間後ぐらい。クラッチの操作を意識せずにできるようになったのは1ヶ月後ぐらいかな。俺は運動神経ってのはごく普通の方だと思うから、大体これぐらい乗っていればマニュアル車が運転できると思っていいんじゃないかな。
慣れてみると、マニュアル車の運転ってのは、オートマより全然楽しい。確かにオートマよりやる事多いし、覚えなくちゃいけないことも多いんだけど、バイクを直接操作してる、って気分がダイレクトに味わえる。個人的にはマニュアル車の方が趣味に合うかな。
まあ、そ~でない人も多いと思う。別にバイクなんて簡単に走ればいいじゃん、ってのを否定はしない。でも、マニュアル車にはマニュアル独特の味、ってのがある。どうせなら両方知った上で選択する方がいいんじゃないかと、個人的には思う。

マニュアルとオートマの運転方法の違い

マニュアルとオートマの運転方法の違いって、簡単にいうと、「オートマは両手だけで運転できるけど、マニュアルは両手両足で運転する」ってこと。

オートマ

  • 右手 - スロットル操作、前ブレーキ
  • 左手 - 後ブレーキ

マニュアル

  • 右手 - スロットル操作、前ブレーキ
  • 右足 - 後ブレーキ
  • 左手 - クラッチのON/OFF
  • 左足 - シフトの切り替え

マニュアルでは、「右側がブレーキ(制動)、左側が変速」となる。

変速について

マニュアル車の操作において特徴的なのが変速操作である。最初はこれに慣れるのに苦労すると思う。

なぜ変速が必要なのか

バイクはエンジンで発生した回転力を駆動輪に伝えて走るわけだが、駆動輪を効率よく回すためには歯数の違う数種類のギアが必要である。
多段変速の自転車を乗った事がある人なら分かると思うが、自転車で坂を登ろうと思ったら軽いギアを、速度を上げようと思ったら重いギアを使う。これは人間の脚力という一定の力を効率よく自転車の後輪に伝えるための仕組みである。
バイクの場合も全く同じで、エンジンで発生した回転力を有効に利用しようと思ったら、数種類のギアを用意してそれを切り替える必要がある。マニュアル車の場合は走行状況に併せて、人間が最適なギアを選択してやる必要があるわけだ。その際、一旦、エンジンとギアの接続を切らないと、他のギアに切り替えることができない。そのためにクラッチがある。クラッチで一旦接続を切り、ギアを切り替えてから、再度クラッチを繋ぐ、というのがマニュアル車の基本的な変速操作である。
自動車の場合はハンドシフト・フットクラッチだが、バイクの場合はフットシフト・ハンドクラッチである。

シフトの仕組み ~マグナ50の場合~

マグナ50に付いてる変速機は「常時噛合式4段リターン式」と呼ばれる形式である。シフトの状態として1速から4速があり、1速が一番軽く、4速が一番重い。また、それ以外の状態として、ギアがつながっていない「ニュートラル」という状態がある。

  • 一番下まで踏み落とした状態が1速。
  • シフトアップ(ギアを上げる)には、左足の甲でシフトペダルを下からコツンと蹴り上げる。1速からシフトアップした状態がニュートラル。ニュートラルからシフトアップすると2速、シフトペダルはニュートラルの位置に戻るが、ギアは2速に入ったまま。
  • その後、同様にシフトアップすると、3速、4速と切り替わる。4速でシフトアップしても変化はない。
  • シフトダウン(ギアを落とす)には、シフトペダルをニュートラルの位置で上から1つ踏む。
  • シフトの状態は「1速→ニュートラル→2速→3速→4速」となる。逆は「4速→3速→2速→ニュートラル→1速」である。

ギアが軽くなるほど大きな力が出るということであり、発進時は1速を使う。で、マグナ50の1速って超トルク重視のギア比なので、5mも走ったら間髪入れずに2速に入れる。じょじょに速度を上げていくには、シフトアップしていく。街乗りでは3速と4速を適時切り替える感じ。巡航時にはずーっと4速ということも多い。坂道を登るときは3速、もっと急な坂では2速や1速を使うこともある。信号待ちで止まってる時は、ニュートラルに入れておく。

俺も最初、マグナ50に乗って山道を登った時、4速に入れたままにしてると、どんどんスピードが落ちていって「あれ~?」と思った。オートマのDioならスロットル回しているだけで、最適な変速状態に勝手に切り替わるが、マニュアル車だと最適ではないギアを選んでいると極端にスピードが落ちたり、逆に上がったりする。50ccのマニュアル車ってのはそんなモノだ、って事も知らなかったわけ。

あと、ニュートラルに入れる、ってのも、ちょいコツが要る。あまり上げ過ぎると2速に入ってしまうからだ。俺の場合は1速まで落としこんで、チョイ、という感じでニュートラルに入れている。ニュートラルに入るとランプが付くので、それを確認すること。

シフトアップ・シフトダウンのタイミングを知るには

マニュアル操作で最初分からないのが、いつシフトアップやシフトダウンをするか、ということだ。慣れてくると大体の感覚で分かるのだけど、もっとちゃんとそれを知るにはどうしたらいいだろうか。
最初はスピードメーターで速度を見る、というのがいいだろう。速度が伸びなくなってきたらシフトアップ、落ちてきたらシフトダウンというわけだ。しかし、実際にスピードに影響が出た段階だと、シフトのタイミングとしてはちょい遅い。ホントは、どちらかに振れ始めたタイミングで切り替えるの最も望ましい。
そのためには「タコメーター」を付けるのがいいだろう。タコメーターというのはエンジンの回転数を見るメーターだが、これがあるとシフトのタイミングを知ることができる。エンジンにはパワーバンドという、効率よくトルクを発生できる回転数域というのがある。マグナ50のノーマルエンジンだと、5000~8000回転というのがパワーバンドである。で、タコメーターを見て、このパワーバンドを外れそうになったら、シフト操作をしてやればいい。8000回転を超えそうになったらシフトアップ、5000回転を割りそうになったらシフトダウンということだ。スピードが伸びない、または落ちるというのはパワーバンドを外れてしまった後なので、スピードを見るより回転数を見た方がシフトのタイミングを知るのは最適である。*1
マグナ50には標準ではスピードメーターしか付いていないが、ほとんどのマニュアル車ではタコメーターというのは必須の装備である。カスタムする場合も、かなり早い段階でタコメーター装備というのは考えておいたほうがいいと思う。

今、何速に入っているのか知るには

マニュアル車で今、何速に入っているのかはかなり重要な情報だ。もう4速に入ってるのにシフトアップしてしまった、なんてのはよくある経験。自動車の場合はシフトレバーの位置で分かるけど、バイクの場合は分からない。基本的にはシフトの際に数えて頭の中で覚えておく必要があるだろう。
マニュアル車の中にはシフトインジケータで今、何速に入っているか分かるモノもあるけど、マグナ50ついていない。だから、シフトが今、何速か知る手段というのはない。スピードだけでは、何速かは分からないからだ。
まあ余裕がある時なら、1速、または4速に入れておいて(つまり下げ切るか、上げ切るか)、目的のギアに入れたらいい。
またタコメーターが付いているなら、スピードと回転数の関係から何速かというのは分かる。「ああ、4500回転で40km/hぐらいってことは4速かあ」っていうような感じ。だからタコメーターは早く付けた方がいいよ。

ブレーキ

マニュアル車の場合、ブレーキの操作も気を使う必要がある。

ブレーキ操作の基本

ブレーキ操作の基本は「急制動する場合は前ブレーキで」ということだ。マグナ50の場合も前輪が油圧式ディスク、後輪が 機械式リーディングトレーリングで、前輪の方が効きがいい。後輪は制動というより減速が主で、スピード調整に使う事が多いだろう。
俺の場合、最初、後ブレーキ(フットブレーキ)をどのタイミングで使うのか分からなかったので、全く使わなかった。変速もやらないといけないんで、結構混乱するのよ。使い出したのは、坂道を下るときとかそんな時だけね。まあ、信号なんかで止まってる時は、後ブレーキを踏んでたけど。
で、後ブレーキがちゃんと使えるようになったのは3ヶ月目ぐらいだった。後ブレーキでじょじょに減速しといて、最後に前ブレーキで停止する、って感じ。それまでは無理して使わないで、前ブレーキだけで確実に止めておいた方がいいかもしれない。
ただし、急制動といってもロックさせてしまわないこと。ロックすると制動もなにもあったモンじゃなくて、最悪、転倒につながる。まあ、練習時にはロックさせる練習もしておいて、いざという時にパニックにならないことだ。

エンジンブレーキ

マニュアル車には、前輪、後輪のブレーキ以外に、第3のブレーキがある。それがエンジンブレーキである。*2
走行中にスロットルを切る(アイドリング状態)とどうなるかというと、燃焼が起こらないからじょじょにスピードが落ちる。またその際、ピストンとクランクというのは逆に抵抗になるので、スピードの落ちる割合が速くなる。
これをシフトと組み合わせるとエンジンブレーキとなる。走行中にスロットルを切った状態で1つ下にシフトダウンすると、エンジンの回転数は上がるが、同時にピストンとクランクの抵抗で急激に回転数が落ちる。このシフトダウンをどんどん下にやっていくと、あっという間に速度が落ちる。これがエンジンブレーキである。
エンジンブレーキはかなり強力な制動がかかるので、慣れないうちは注意が必要である。時には駆動輪(後輪)がスリップしてしまうこともある。

発進の手順

マグナ50で発進するには、次の手順で行う。

  1. エンジンキーをONにする。
  2. キルスイッチがRUNになっていることを確認する。
  3. ギアがニュートラルになっていることを確認する。
  4. スタンドを上げる(ノーマルのCDIではスタンドが立ってるとエンジンがかからない)
  5. クラッチレバーを握る
  6. セルスイッチを押して、エンジンをスタートさせる
  7. ギアを1速に入れる
  8. クラッチレバーをじょじょに離す。いきなり離すとエンストするので注意。
  9. 走り出したらOK。

もしエンジンがかからない場合は、まずキルスイッチがRUNになってるか確認。スタンドが立ってるか(スタンドランプが消えてるか)も確認。次にちゃんとガソリンが入ってるか確認する。それでもかからない場合(セルがキュルキュル力なく回っている音がする場合)は、バッテリー上がりの可能性がある。その場合は、押しがけしてみる。

押しがけの手順

  1. バイクから降りる
  2. エンジンキーをONにする。
  3. キルスイッチがRUNになっていることを確認する。
  4. クラッチレバーを握る(クラッチを切る)
  5. ギアを1速、または2速に入れる(俺は1速に入れることがホトンドかな)
  6. バイクを押して、スピードをつける。もし坂道の場合は、下りを利用してもいい
  7. スピードがのった状態でバイクに乗る
  8. クラッチをパッと離す(クラッチを繋ぐ)
  9. エンジンがかかればOK。

かからなければまた最初からやり直し。何度かやればコツがつかめると思う。マグナ50は軽いバイクだとは思うがそれでも100kg弱はあるので、押しがけができる体力は日頃から鍛えておくこと。

停止の手順

信号なんかで停止するには、次の手順で行う。

  1. スロットルを切る
  2. クラッチレバーを握る
  3. 前ブレーキ、または後ブレーキをかける
  4. ギアを1速までシフトダウンする。
  5. 完全に停まったら、後ブレーキを踏んでおく
  6. ギアをニュートラルに入れる。これでクラッチレバーを離してもOK

慣れないうちは、ギアは切ってブレーキで完全に停める方がいいだろう。シフトダウンもクラッチを切った状態で1速まで一気に落とした方が簡単。変速と制動をいっぺんにやると混乱することもあるからね。慣れてきたらエンジンブレーキを使いながら、じょじょにシフトダウンしてもいい。そこらあたりはお好みで。

練習場所について

バイクでもマニュアル車ってのは、どうしても身体で覚える、ということが必要だ。特に危険な時には無意識のうちに身体が反応するとこまで習熟してないと、かなり危ない乗り物だと思う。自動車とかスクーターと違って、誰でも簡単に乗れる、ってシロモノじゃないんだからさ。そのため、身体に覚え込ますための練習が、絶対に必要だと思う。
俺の場合、いきなり公道を走ってみたのだけど、今、考えると確かに無謀だったかもしれない。最初のうちは、ちゃんと練習してから乗った方が安全だろう。
練習場所としては、俺の場合だと、マンションの駐車場が結構広かったので、そこでぐるぐる回って練習した。特に押しがけの練習とかは、ある程度広い場所でやらないとスピードが乗らないので、注意。バイク屋さんの敷地内とかで練習できる場合もあるので、相談してもいいかも。
あと、教習所も場合によっては練習させてくれることもある。ほとんどは有料でバイク持ち込みになると思うけど。
また、松山には二輪車交通公園という、二輪の練習専門の公共施設がある。原付のおばちゃんに混じって、ジムカーナや白バイ隊員が練習してたりするので結構楽しい。
まあ、危険のない広いトコで、そこの管理者に許可を取れば、どこでも練習はできると思う。

給油のタイミングを知るには

給油自体はスタンド行けばやってれるけど(別に俺のようにセルフスタンドオンリーでもいいけど。ああ、買ったショップでガソリンキャプの開け方、閉め方は聞いておいた方がいいと思う)、問題は「いつスタンドに行くかを知るか」ということだ。って、マグナ50には燃料計って付いてないんだよね。安いスクーターにだって燃料計ぐらいついてるのに、マグナ50に付いてねえってど~いうこと?、と怒ってみても付いてないモノは仕方ない。
まあ、キャップを開けてタンクをのぞくとか、ゆすってみるってのもいいんだけど、俺はもっと別の方法で給油タイミングを測ってる。
それは燃費計算する、ってことだ。給油するときは必ず満タンにしておいて、自分のバイクの燃費に合わせて、何km以上走ったら、また満タンに給油する、というようにすれば、ガス欠ってのはまず起こらない。俺の場合だと、燃費が45km/Lぐらいでマグナ50のタンクって8L入るので、250km(5.6L使った勘定)走ったら給油するようにしてる。
燃費は同じ種類のバイクでも違うし、乗る人のスタイルによっても変わってくる。メーカーカタログ値なんて、絶対でるもんじゃないって。自分のバイクの燃費を知るには、スタンドで満タンにして少なくても100Km以上走ってから、また満タン給油して給油量を見て走行距離から計算(走行距離÷給油量)したらいい。
俺の場合は、最初はノーマルメーターの距離計で距離を計算してたんだけど、年取って細かい数字覚えるのが面倒になったんで、トリップメーター付きのメーターに交換して、給油のたびにリセットしてる。これなら単純に250km走ったら給油、ってことなんで面倒なくていいからね。満タンで360km(45km/L×8)走れるとして、走行距離の割合で燃料の残量が分かる。トリップメーターってのは使いようによっちゃ、燃料計として使うこともできるわけだねえ。
ああ、ガソリン入れる時は、必ずリザーブではなくてONになっていることを確認すること。ガソリン使い切ってコックがリザーブだった、なんて時は泣けてくるからね。


*1 実際、レース車両にはタコメーターは付いていても、スピードメーターは付いていないことが多い。エンジンの回転数というのは運転にとって非常に重要な情報だが、レースにおいてその時点で何キロでていようが、あまり関係ないのである。
*2 スクーターのオートマの場合は、エンジンの回転数と駆動輪の回転が常時釣り合った状態なので、構造的にエンジンブレーキをかけることができない(大排気量車のオートマではできる車種もあるが)。エンジンブレーキは、両方が釣り合わない(エンジンの回転数が駆動輪に対して極端に少ない)ことを利用したブレーキである。