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松山発徳島行き特急

 高校を卒業して初めての年末。大学進学や就職と進路もバラバラになったので、同窓会が頻繁に開かれていた。竹田津が出席したのは中学校の同窓会。当然、直子も来る。
 
 竹田津は、もう別に自分を縛るものは何もないので、直子とも自然に話をした。2次会、3次会と仲のよかった同士でバラけていったが、最後まで直子と一緒だった。
 直子は女子大生になっていた。いい意味でも、悪い意味でも。男のあしらいもうまくなっていた。まあ、大学生っていうのはコンパが半分仕事みたいなものである。それも当然だろう。しかし竹田津は、急に直子のことが子供っぽく思えてきた。確かに年相応ではある。でも、何かこう幼い感じなのだ。まあ、竹田津はもう一線級の社会人としてバリバリ仕事を始めている。大人の付き合いや酒の飲み方も覚えてきた。向こうはまだ学生。そう見えても仕方がない。その時はそう思った。
 
 帰る段になって竹田津は直子を一人タクシーで帰らせた。別にタクシー代ぐらいは屁でもない。そのとき世間話で、「何日に徳島に戻るのか」と聞くと、直子は「この日ぐらい」とあいまいに答えた。それを聞けば十分だった。
 
 直子が徳島に帰るといった日、竹田津は多分この便に乗るだろうとアタリをつけた、松山発徳島行き特急。出発のベルが鳴ると同時に竹田津は列車に乗った。先頭の車両から探すと直子がいた。
 
 眠っていた。
 
 竹田津は4人掛け席の対面の椅子に座ると直子が起きるのを待った。時間が流れる。竹田津はじっと直子の顔を見た。19才、多分、直子の人生において最も輝いている瞬間。竹田津はそれを目に焼き付けておこうと思った。
 
 1時間半後、直子が起きた。
 
 直子はハッとした顔で、最初竹田津の顔を十秒間ぐらいマジマジと見た。そして急に悲しそうな顔になって視線をずらし、下の方を向いた。
 
 竹田津には分った、「直子は俺を選ばなかったのだ」と。

 その後、二人の間には一切会話はなかった。いや必要なかった。こんなときに言葉は一切の意味を持たない。
 
 列車が高松駅に着いた。竹田津は列車を降りた。直子はそのまま徳島に戻る。竹田津は駅をでて大きく伸びをした。そして口に出して言ってみた、「ああ、直子にフラれたか」。
 長い恋だった。初めての恋だった。苦しい恋だった。でもそれもすべて過去の事。
 
「さて、さっさと童貞でも捨てるか」、竹田津は自分の前に大きな可能性が広がるのを感じていた。
 
 
 第1章 「直子」 終了

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投票数:767 平均点:6.28
作成:2009-7-14 12:30:22   更新:2009-8-16 11:54:44
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