声の網 
あるマンションに起こった11の事件を集めた短編。いずれも電話をモチーフにした話で、じょじょに背後にある、ある存在が明らかになっていく。星新一作。
星新一の作品は今読むと「これのどこがSFなんだ」と思うことがしばしばある。例えば現在普通にあるものが書かれていたりするわけだ。しかしそれを書いた時期を調べてみると、その物が現れる20年前とかそれ以上前だったりする。個人的には密かに「ショートショートの形を取った予言者」と思っているのだが、声の網もそんな作品。
声の網、英訳するとNetwork of voiceだろうか。これは声とはいっているがそれはパソコンなんて予想もできなかった時代に書かれた作品であるためで、描写されているのはまさしく現在のインターネット社会そのものといえる。ネットで株式取引をし、病院の医師に電話を使って体温や脈拍を知らせる。個人の秘密を伝言として電話で録音することもできる。この世界では電話ネットワークが高度に発達しており、多くの情報がネットワークに蓄積されている。そしてその情報群はいつの間にかある意識を持つようになり、人々を監視、支配するようになる。しかしそれは支配といえない。情報群には支配欲はなく、社会の変動をある閾値に収斂させるために自律的に機能しているだけ。全ての社会的危険は予想範囲の中に抑えられ、大きな変動もない。ある意味ユートピアであり、同時にディストピアである。この作品が面白いところは、そうなった理由がある理論に裏打ちされたものであるところ。逆ビックバン理論ともいうべき理論で、一読をお勧めする。
もし、俺がこんな社会に生まれたらどうなるか考えたことがある。まあ、間違いなく厳重隔離か孤島で一人暮らしだろうな。まあ、その意味ではまだこの予言は成就してないようだ。いまのうちに突破口を見つけることにしよう。