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サイト内の現在位置です: 屈辱 正月、元旦になった。 母親が、さも当然のように竹田津に言った。権藤という男、松山の土地持ちで、手広くやっているそうである。年の頃なら60才、といった所。脂ぎった顔は、いかにも妾を囲いそうな男である。しかも、恥知らずなことに、妾宅とはいえ、そこに初対面の社会人の長男がいる家に、正月元旦から、のうのうとやって来ている。まあ、いままで権藤に逆らう人間なんていなかったのだろう。やりたい放題やってきた。そんな感じが顔に出ている。母親は、権藤を上座に座らせた。竹田津は、もう、どうでもいい気分になっていた。竹田津家は親父がいない今となっては、社会人になった竹田津が当主であるハズである。当然、上座には竹田津が座るべきである。もし、昔の武家ならそういうことだ。しかし、母親は明らかに権藤に媚びながら、こう言った。 なんのことだ? 確かにあんたはこの男の世話になっているかもしれん。しかし、俺はこんな男と何の関係もないし、世話にもなっていない。まだ社会人一年目とはいえ、自分で自分の道を切り開いてきて、ここまできた。なんで、この親父に頭を下げる必要がある? 権藤は少々、びっくりしたような顔をした。そんな言い方をする人間なんて、ここ数年いなかったのだろう。 竹田津はカチン、と来た。今に思えば、まだ若かった。言葉が鋭くなった。 母親が遮った。その時、竹田津は「もう、あんたに『恩』なんて呼んで欲しくないけどな」と思った。母親の名前は恵子である。 思わず口に出そうになったが、それを口の中で噛み殺した。俺にはしなければいけないことがある。それは、親父が残してくれた1000万の保険金のうち、長男の俺が、当然、貰うべきである、1/4、つまり250万を、この恵子から奪い取ることである。 竹田津は「絶対にこの屈辱を忘れない」と思った。イヤ、「母親を殺したい」とまで思った。しかし、殺してしまっては、金は手に入らない。それまでは、せいぜい、アンタのええ息子でいてやるわ、竹田津はそう思った。別に金額の多寡が問題なのではない。それは、親父と自分のプライドの値段、であるからだ。 運命とは皮肉なものである。仕事はまったくの順調、前途洋々である。しかし、家族関係は無茶苦茶、ほとんど壊滅状態といっていい。自分は家族を守るために、自分のできることを、真っ当に懸命にやってきた。 それなのに運命は竹田津にこれほどまでの、過酷で多重な罠を仕掛けてきた。なぜ? その時の竹田津には、まるで分からなかった。
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作成:2011-3-10 4:23:06
更新:2011-3-16 4:23:08
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