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直子2

 高校を卒業して初めての年末。大学進学や就職と進路もバラバラになったので、同窓会が頻繁に開かれていた。竹田津が出席したのは中学校の同窓会。当然、直子も来る。竹田津は、もう別に自分を縛るものは何もないので、直子とも自然に話をした。2次会、3次会と仲のよかった同士でバラけていったが、最後まで直子と一緒だった。
 
「直子、お前、月島と付き合うとるん?」

 酒の弾みに何度も口から出そうになった。でも、それは言ってはいけないことだ。うがった見方をすれば、直子は薬剤師、月島は医者、まあ、夫婦になるのなら、これほどいい組み合わせはないかもしれない。
 しかし、月島は、いわゆる「モテるタイプ」の男だった。別にルックスがそれほどいいわけではない。しかし、目立つタイプではないが、狙ったモノは確実に手に入れるタイプ。例えば、月島が学生時代に付き合っていた彼女というのは、竹田津のクラスでも、直子に次いで美人の女の子だった。そして今は国立大学の医大生。そのブランドだけで、女は寄ってくる。月島も、ようやく「本命」に近づける、そう思ったのかもしれない。
 同じ同窓会、月島も来ている。竹田津は、それとなく、直子と月島の感じを観察していた。二人はまるで何もないような素振りをしている。二次会までは一緒にいたが、三次会では月島の姿は見えなくなった。まったく、猿芝居もいいところである。まあ、竹田津というのは、クラスで目立つ方で、直子を好きだ、っていうことをみんなが知っている。直子も当然知っているだろう。だから、高校でも何度か接触を持った。だから、直子も三次会まで付き合ってくれた。「ご苦労ね」、と。
 
 竹田津は、実家で起こったこと、そして直子の態度、松山で起こったこと、全てが「悪夢」のように思えてきた。
 
 当然、人には表があり、裏がある。表の顔ばかりで生きている人間なんていない。竹田津もそれは十分に分かる。しかし、子供であるのに露骨に表と裏の顔を使い分けようとする。竹田津には、たまらなくそれがイヤだった。
 
「あ~、俺、酔ったわ。もう、帰るわ。田中、帰るんならタクシー代ぐらい、出しちゃるぜ」
「わ~い、さすが『主任』」

 やはり子供だ。社会においての「肩書き」の意味が分かっていない。まあ、竹田津はもう一線級の社会人としてバリバリ仕事を始めている。大人の付き合いや酒の飲み方も覚えてきた。向こうはまだ学生。そう見えても仕方がない。その時はそう思った。
 
「徳島にいつ帰るん?」
「う~ん、7日か8日ぐらいやと思うけど、まだ決めてない」
「そうかあ、じゃあ、薬剤師の勉強、頑張れよ」
「ありがと」

 直子は帰った。もう、会うこともないはずの男に、タクシー代を貰って。
 
「まあ、最後に、もう一回だけ、直子に直接二人きりで会ってみるか」

 竹田津は、そう思った。学生時代の、初恋に別れを告げるために。

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投票数:347 平均点:6.05
作成:2011-3-10 2:59:29   更新:2011-3-16 4:20:53
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