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父の死

 竹田津と直子は、県立伊予東高校に進学した。また一緒である。まあここは一学年600人のマンモス校なので同じクラス、とまでは都合よくいかなかったのだけど。
 伊予東高校は公立では愛媛一番の高校で、進学校でもある。トップ10人は東大、京大クラスだし、100番以内は国立の一期校で当然といった雰囲気がある。

 竹田津は高校に入っていきなり劣等生になってしまった。なにより英語がまるでできなくなってしまったのである。高校はおろか中学校の教科書を読んでも理解できない。分るのは単語の意味と、簡単な挨拶の仕方ぐらいである。いくらやっても頭が英語を拒否する。
 これはハッキリと「大学進学は無理」と宣告されたようなものである。大学というのは英語で論文を書く。英語ができないのであれば大学に行く意味がない。
 また中学の時にあれほど得意だった数学も全然駄目になった。まず、微分・積分が理解できない。他の概念もウソばっかりなような気がして覚える気が全然しない。唯一できるのは現代国語のみで、他の教科は全部赤点という状況になった。

「大学進学は無理」ということを現実が後押しした。一年の冬に竹田津の父親が死んだのである。死因は肺ガン。1年間闘病した末の死であった。しかも死後もっと重大な事実が積み重なった。三千万円の借金があるというのである。竹田津は父親の死を悲しむ間もないまま、世間というものと直接対峙しなくてはいけなくなった。
 まず社会科の教師に相談に行く。すると教師は市役所の無料法律相談に行くように勧めてくれ、竹田津は授業を休んで市役所に行った。法律の専門家は「財産放棄」というものをすれば父親の残した借金を払わなくていい、と教えてくれた。しかし期限は3ヶ月。竹田津は学校に休学届を出して、関係する親戚の間を回った。中には「なんで高校生のお前のいうこと聞かんといけんのぞ」と偉ぶる親戚もいたが、「じゃあ、おいさん、三千万払ってくれるか?」というと皆黙った。竹田津は関係する全員分の書類を持って、裁判所で財産放棄の手続きをした。
 しかし法律的には借金がなくなったといっても、借金取りが家に来て嫌がらせすることは何度かあった。中には母親と姉を風俗で働かせる、といいだした馬鹿もいた。竹田津は「今のテープレコーダーに取っとるから、今から一緒に警察行くか?」と言ったら相手は二度と来なくなった。
 世間の裏側のほんの一部を知ってしまった竹田津は、高校で行儀よくお勉強して大学行く、ということにまるで興味がなくなってしまった。だっていくらまじめに勉強したり働いたりしていても、保証人の判子一発ついてたりしたら、それだけで人生崩壊する。今回は運良く助かったけど、もし父親の死を悲しんでいるだけで何もしていなかったら、社会に出て行く前に人生終わっていたのである。

 しかし「大学に行かない」ということはある大きな決断を竹田津に迫る。それは「直子争奪レースから脱落するのか」ということだ。この時点で竹田津は直子をあきらめるにはあまりに好きになりすぎていた。直子はこの学年では明らかに1、2を争う美人である。多くのヤツが狙ってる。大学に行かないで、そいつらを出し抜くには強力な武器がいる。竹田津はそれを探し求めた。

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作成:2009-7-11 13:15:59   更新:2009-7-30 15:18:19
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