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バイト三昧

  竹田津は早々に学校へ「就職希望」を伝えておいた。一学年600人中595人までが進学志望の学校である。奇異な目で見られたが、竹田津は一向に気にしなかった。一日でも早く自分だけの力で飯が食えるようになったら、それで竹田津の悩みは解消する。直子に告白できないのは「親に食わせてもらっている」、ただその一点なのだから。

  それからというもの、竹田津はバイト三昧の日々に明け暮れた。朝は新聞配達、夜は大街道にある大きなスーパーでのレジ打ちである。社会とは何か、仕事とは何かを身体で覚えようと思ったのである。それに何より自分で自由になる金が欲しかった。親父が死んでからというもの、家から一切小遣いを貰うことはなくなった。もちろん学校はアルバイト禁止だ。でもどうやら黙認してくれてたみたいで、毎日2時限目から登校していたが文句を言われる事はなかった。

  そんな生活を始めたので、学校は単に「直子を見に行くための場所」と割り切った。部活も水泳部から美術部に変えた。部活に使える時間がなくなってしまったからだ。美術部では美大志望の頭でっかちの先輩が、小難しい美術理論をふっかけてきたが一切無視した。あんたは美大でも行って、売れない画家で一生過ごしたらいい。部活の時間はひたすら田宮模型の1/35人形を改造してガンダム人形を作った。パテとカッターさえあれば好きなだけ楽しめる。手先は器用な方だから手間をかけまくってかなりのクオリティのモノができた。これをシリコンで型を取って、レジンで大量にコピーして文化祭で売った。1体100円だったが飛ぶように売れた。客の中には直子もいた。聞こえよがしに「これ、弟が好きなんだよねえ」とかいいながら、ザク、ドム、ジムの三体セットを買っていった。ふん、分かってるじゃねえか。

  バイトに明け暮れているうち、だいたい社会の原則が分かってきた。新聞配達やスーパーのレジ打ちのような、誰でもできる仕事はそれなりの給料しか出ない、という事だ。それに仕事を続けていくには、それなりのモチベーションが大切だということ。いかに金のためとはいえ、つまらない仕事をずっと続けていけるほど、人間は強くない。
  そう考えていくと竹田津は自分には職人が合ってる、と気が付いた。モノ作りをやっている時が一番楽しい。それに職人だと大卒である必要もない。

  竹田津は「武器」の輪郭がおぼろげながら見えてきた。
   

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作成:2009-7-12 6:37:02   更新:2009-8-24 14:36:29
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