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FX-702P

「職人になる」と決めた竹田津は、次に何の職人になるのか考えた。職人といえば、大工、板前などが代表的だ。しかし、竹田津はこれらの職人になるつもりはなかった。竹田津の望んでいるのは、東大、京大卒の官僚よりも魅力のある職人。そうでないと「武器」にはなり得ない。それに普通、職人になろうとする場合、徒弟制度がある。親方やら師匠について技を教えてもらう訳だが、普通これには最低でも5〜10年の下積みが必要だ。その間は修行中、つまり半人前なのだから色恋は御法度だろう。竹田津にはそんなことを悠長にやってる時間はどこにもない。できれば師匠なしで即効で決められるモノが望ましい。

 そう考えていくと、2つの候補が残った。

 ひとつ目は「漫画家」である。漫画家というのはジャパニーズドリームの最高峰と言えるもので、当たれば稼ぎは桁外れである。実際、竹田津も中学校時代に漫画家を夢見たことがあって、サイクルスポーツという自転車雑誌のひとコマ漫画コーナーに投稿して2戦2勝したことがある。しかし漫画家は確かに当たればデカいが、外れれば悲惨である。そんな一か八かの勝負にうってでる訳にはいかない。

 そうすると自然ともうひとつの選択肢が候補に残る。それは「プログラマー」だった。
 竹田津が高校生だった当時、ちょうどパソコンが黎明期であり、今後この分野が伸びていく事は高校生の竹田津にも容易に想像できた。しかもパソコン、いやコンピュータはプログラムがないと動かない。という事は、プログラマーであればまず食いっぱぐれはないという事だ。しかもAppleに代表されるようにドリームの宝庫である。その上、プログラマーは独学が可能だ。どうせ学校に行っても授業なんて聞いてないのだから、その時間を有効に利用しないともったいない。
 そう考えた竹田津は、電器屋に行って、あるプログラム電卓を買ってきた。カシオのFX-702P。たった2kバイトのソースコードメモリーしか持ってないちゃちな電卓だったが、それが当時の竹田津が入手できた唯一の「コンピュータ」だった。
 搭載言語はBASIC。竹田津は書店にあるBASICと名のついた本を全部買ってきて、徹底的に読んだ。特にサンプルはアレンジして自分の電卓で動かしてみた。プログラムというのは動く動かないがハッキリその場で分かる。動かない場合はなぜ動かないのか分かるまで考えた。何百回、何千回ものトライ・アンド・エラー。中学の時は数学の議論の相手が人間だったが、今回の相手はコンピュータ。高校の数学はさっぱりだったが、コンピュータ相手の数学は違う。非常にシンプルだけど、奥が深い。竹田津はコンピュータ相手にあらん限りの勝負を挑んだ。
 基礎段階が終わると、今度は自分でオリジナルのゲームを作り始めた。たった1行しかない表示エリアだったが、その制約を逆に利用して1行でも遊べるゲームを作った。ゴルフゲーム、パックマン、BJ・・・。自分が使ってない時は同級生に1時限100円でレンタルした。当時は携帯ゲームといえばゲームボーイもなく、せいぜいゲームウォッチが関の山。レンタル希望は殺到した。

 こうして竹田津は「強力な武器」をつかんだ。後はこれを研ぎ澄ませばいい。

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作成:2009-7-13 4:16:51   更新:2009-7-30 17:47:33
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